看護師の村田です。
ここ100年の近代合理主義において、客観性が強く求められてきました。医療や介護でもエビデンスが求められ、より客観的事実に基づいた対応や説明を求められます。ご家族としては当然のことで、私たちもどのようにご家族へお伝えしたらよいか、今後も考えて工夫していく必要があります。
しかし、そもそも「客観性」とは何でしょうか?客観性もエビデンスも扱うのは人間です。何をもって客観性といえるのか。主観と客観との境界線はどこにあるのか。これは私の大学時代の芸術哲学における研究テーマでもありました。
今回は「客観性の落とし穴」(村上靖彦著/ちくまプリマー新書)を紹介します。
主観や主体、客観や客体というと思い出されるのは西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」という考え方ですが、本書では西田哲学のような形而上学的な内容よりも、医療や福祉のかなり具体的な事例を取り上げていきます。また取り上げた事例を、今度は現象学の思考方法を使って解説していきます。
著者は形而下の内容を解説しているのに、私としては逆に現象学の理解を深めることになりました。そこが私にとっては面白い読書体験となり、学生時代に読んだ現象学の本を引っ張り出してきて再読したほどでした。こちらは「現象学入門」(竹田青嗣著/NHKブックス)です。分かりやすいのですが、絶版の可能性があります……。
哲学書は敬遠されがちですが、子ども向けの本も多く出ているので、たまには手に取ってみるのをお勧めします。

